【プロの葛藤】ゴアテックスに油染みはヤバい!「洗濯表示」を疑う理由とは?モンベル ストームクルーザーシミ抜き術(後編)
- 染み抜き 武田クリーニング たけしん
- 11 分前
- 読了時間: 5分
こんにちは、染み抜き武田クリーニングです!
昨日の動画(前編)で、失われた撥水機能が見事に回復したモンベルの「ストームクルーザー ジャケット」。今回はその続編として、撥水加工を行う前段階、最もデリケートな作業である「シミと汚れの除去」の全貌を公開します。
この作業の裏側には、クリーニング師として洗濯絵表示(ケアラベル)を信じるべきか否かという、大きな葛藤がありました。
1. 今回の事例:油分を主成分とする複合的な汚れ
今回お預かりしたジャケットは、長年のご愛用による全体的な汚れに加え、広範囲にわたって油分を主成分とする複合的なシミが散見されました。
これはもう、「汚れることを気にせず着続け、全く洗わない」という着方をしない限り、こんな状態にはなりません。雨や雪に強いゴアテックスですが、その耐久性に頼りきってしまうと、汚れは着実に蓄積してしまいます。
別の言い方をすれば、「雨風に強いウェアだからこそ、皮脂や油汚れの蓄積に注意が必要だ」ということです。
2. ゴアテックスにとって油染みはなぜ「厄介」なのか
ゴアテックスは、耐久性、防水性、透湿性を持つ「無敵」に近い機能素材です。しかし、致命的な弱点が二つあります。それは「火」と「油」です。
特に油に関しては要注意です。皮脂や飲食系のシミなど、日常には油性の汚れが多く存在します。
油染みそのものが厄介なのではありません。その油染みが「ゴアテックス」についていることが、厄介なのです。
通常の衣類であれば、油染みは比較的容易に除去できます。しかし、ゴアテックスは表の生地と防水膜が特殊な技術で接着された多層構造になっています。このデリケートな構造こそが、シミ抜きを難しくする最大の理由です。
油染みに効果的な強い溶剤や薬品は、この接着部分に影響を与え、接着の剥離、樹脂の滲み出し、生地の浮き、そして機能性の部分的な劣化といった、取り返しのつかないリスクを伴います。
だからこそ、私たちは「ゴアテックスの油染み」に対し、細心の注意と高い技術を持って臨まなければならないのです。
3. プロのジレンマ:「洗濯絵表示」 vs 「経験とリスク」
この深刻な油染みを前に、今回の作業で大きな問題が浮上しました。それは、このジャケットの洗濯絵表示です。
今回お預かりしたモンベルのストームクルーザーは、なんと「ドライクリーニングOK」の表示が付いていました。
実は、ゴアテックスウェアのほとんどは、接着層への影響を避けるために「水洗いのみOK、ドライクリーニングNG」が圧倒的に多いです。ドライクリーニングは油性の汚れ除去が非常に得意なため、プロとしては「ドライOK」の表示は一瞬喜びを感じます。
なぜ、あえて表示を信じなかったのか?
油染みを落とすのにドライクリーニングは最適解の一つです。しかし、僕はプロの判断として、この表示を信じず、ドライクリーニングは最終手段にしたいと思いました。
その理由は、「キワ付き(きわつき)」や「輪染み」のリスクです。
ドライクリーニングの溶剤は、縫い目(シームテープ)などの厚手の部分に残留しやすく、乾燥の際にムラとなって現れます。これが「キワ付き」です。水洗いではキワ付きは起こりませんが、ドライではこのリスクを完全に排除できません。
過去の経験上、ドライで発生したムラを修正する作業は非常に手間がかかり、お客様にご迷惑をかける可能性がありました。
「水洗いで綺麗にしたい。でも、この酷いシミはドライでしか無理かもしれない...」
この葛藤の末、今回はお客様にリスクをご承諾いただいた上で、細心の注意を払った特別なドライクリーニングを選択する、という非常に稀な判断を下しました。
4. シミゼロへ!そして残る教訓
結果として、最大限の工夫と予防処置を行ったことで、今回のドライクリーニングは成功しました。
ただし、それでもごく僅かながらキワ付きは発生しています。この事実が、改めてゴアテックスという素材のデリケートさを物語っています。
しかし、肝心の結果は、シミは一つも残っていません。シミゼロです。そして、昨日お見せしたように撥水もバッチリ効いています。
お客様にご満足いただける結果を目指し、時間と手間を惜しまず作業をさせていただきましたが、今回の事例から改めて皆様に知っていただきたいのは以下の点です。
【最大の防御は「予防」です】
ゴアテックスに油染みはヤバい。 この事実を覚えておいてください。
油が付くような作業や、油煙が立ち込めるような場所、環境では、高価なゴアテックスウェアは着用しない方が賢明です。
それでもシミがついてしまったら、諦めずに武田クリーニングにご相談ください。ただし、ゴアテックスのシミ抜きは常にリスクを伴う作業であり、お客様のご理解と許諾が必要となることが多いことを、どうかご理解ください。
私たちは、お客様の大切なウェアを「シミゼロ」にするために、これからもプロの技術と知恵を尽くしていきます。
【ご依頼・ご相談はLINEへ】
油染み、黄ばみ、撥水回復など、ゴアテックスウェアのメンテナンスでお困りの方は、LINEからお気軽にご相談ください。
LINEでのご相談時は、洋服全体の写真、シミの部分的な写真、そしてケアラベル(素材と洗濯絵表示の両方)の写真をお送りください。情報が多いほどスムーズにお返事できます。
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